私のクライアントへの支援の考え方は、
「当事者の主体性を奪うことなく、専門性を持って、
状況を乗り越えてゆくプロセスを支える」ことにあります。
私のそのような実践の基礎は、弁護士以上にキャリアの長い、
コーチ/カウンセラーとしての実践上のスタイルに基礎があります。
これも少しキャリアを遡る形で紹介させていただきます。
1:どうしたら意味のある支援ができる?
会計士としてキャリアをスタートして、企業に関わる文脈の中で私が当初から追及していたのは、
「どうしたら、クライアントに効果的な支援ができるだろうか」という素朴な問いでした。
外部からの専門職の関わりというのは、必ずしも上手く作用しないもの。
建前やルールの押し付けになってしまったり、
支援対象組織のメンバーの思惑と異なる方向に物事を進めてしまい、
関係者のモチベーションを失わせてしまったり。
一体どうしたら「支援される人の望み」に合った支援になりうるのだろうか?
というのは、私が臨床現場でずっと向き合っていた問いでした。
2:コーアクティブ・コーチングとの出会い
そんな私のキャリアのスタートというのは、
日本に「コーチング」というものが入ってきた2000年台前半。
さまざまな流派・手法・哲学のものが日本に入ってくる中で私が選んだのは、
米国では最大手の「Coaches Training Institute(CTI)」のトレーニングでした。
エイブラハム・マズローの人間性心理学(人間の成長や生きがい、モチベーションに関する心理学)と、
カール・ロジャースのクライアント中心療法(現代のカウンセリングの中心的な手法)を組み合わせ、
現代的なセラピーの手法も大いに取り入れた、本格的なカウンセリングとしての深みもあるスタイル。
その手法は、フロイト由来の精神分析のようなモデル、すなわち、
「コーチやカウンセラーがクライアントの状況を分析して処方箋を出す」という権威的モデルではなく、
あくまで「問題を乗り越えようとしている当事者を支援する」というフラットな関係性のモデルであることで、
クライアントと支援者が「協働的(Co-Active)に力を合わせられる」という強みのあるものでした。
これは私の問題意識にピッタリとハマるものだったため、すっかりこの手法が気に入った私は、
数百時間の実践とトレーニングの時間を何とか捻り出して、国際的な資格(CPCC)を得るところまで取り組みました。
それはコンサルティングの現場において役立つものであっただけでなく、
そういった文脈の中に潜む、個人の悩みや苦しみに深く耳を傾けることも可能にしてくれて、
徐々に私は、組織のコンサルティング以上にそういった個人の支援に関心を持つようになりました。
資格を取得した頃からは、組織の仕事に加えて、
個人のコーチング/カウンセリングの仕事もはじめるようになり、
組織と個人の二つのレイヤーでの支援を自分の領分とするようになりました。
3:組織の背後にある個人の苦悩に立ち会う
そんな個人の支援に向かう方向性を決定づけるようになったのは、組織に対する支援の中でも、
さまざまに個人の方の繊細な部分と向き合うようなことが重なっていったことにあります。
経営者の方はもちろん、管理職でも現場のメンバーにも、
さまざまなチャレンジやストレスが仕事の中では押し寄せてきて、
時には全く動けなくなる心理状態になってしまうことがあるんですよね。
そういったものって、なかなか表に出ないものではあるのですが、
私はどうしても職業柄、そういった舞台裏に立ち会うことが少なくなく。
守秘義務のため、詳しくは話せないのですが、
専門職による医療的介入が必要な危機的な局面にも何度も立ち会ってきており、
それが決して珍しいことではないということを経験的に知るようになりました。
心理職として研鑽を積む中で、それは個人の資質の問題だけではなく、
そういう状況が生み出されがちな文化的な理由、社会構造的な理由も見えてきて。
そういった個人への支援は、時代の要請だなと思うようにもなったのです。
4:私が意識しているもう一つの仕事
それからというもの、私はクライアントに対して、
自分には「ダブルワーク」をする責任があるのだと考えているのです。
今で言えば、弁護士や会計士等の専門職として、
知識や経験を持って、状況の解決に必要なリソースを提供すること。
それと同時に、私のところを訪れてくれた当事者が、
人生で出会った困難な状況を乗り越えていこうとしているそのプロセスを、
対人支援職としての専門性をもって心理的に支えていくこと。
その双方が自分の仕事であって、目指すゴールも「問題の解決」だけではなく、
当事者が「心境の変化、達成感や乗り越え感」を手にすることだと思っています。
というのも、この世界は法律や司法の力を持ってしても、
「思い通りの答えや解決」が得られるほど単純にできてはいないですから、
専門性を持って問題を割り切るだけのサービスでは引き受けきれないものがあまりに多い。
相談に至るまでの、当事者の悩みや苦しみ、
残念さや悔しさ、怒りや悲しみといったものを、
どうやって解決への道のりの中で、当事者と一緒に扱っていけるのか。
そういったことこそ、私の仕事の舞台裏であり、大事な仕事なのだと思っているんです。
5:だから、このスタイルなのです。
それゆえに、最初に書きましたが私のクライアントへの支援の考え方は、
「当事者の主体性を奪うことなく、専門性を持って、状況を乗り越えてゆくプロセスを支える」ことなのです。
人生で起こったトラブルなのですから、主役はやはりクライアントご本人。
時には剣になり盾にもなる弁護士である私ですが、同時に良き聴き手として、
大変の時期を過ごすクライアントを支えていくことを大切な役割だと思っています。