仕事のこと

被害者支援のしごと

私が弁護士になってから、ご縁が多い仕事の1つに
「(犯罪)被害者支援」の分野があります。

都内(第一東京弁護士会)で仕事をしていた頃から、
縁のある方から相談を受けてときおり関わってきていたのですが、

地方(栃木)に移動してきてからは、
あまりこの分野で活動する弁護士が多くないこともあって、
法テラスや被害者支援センターなどから相談があって、
定期的に対応をさせていただくようになってきています。

なんでも「犯罪被害者対応精通弁護士」として名簿に載っているらしく・・・・
対応の経験がある人が、あまり多くないって言うだけなんですけどね。

1:刑事司法制度のちょっと変なところ

これって法制度の欠陥の一つだと思うのですが、
刑事事件というのは「加害者(被疑者、被告人)」が主人公、というか、
中心的な扱いを受けていて「被害者」は、いつもどこか蚊帳の外なんですよね。

刑事司法制度は、基本的に、
「事件の真相解明」と「犯人の適正処罰に」よって、
「社会秩序を防衛する」ための仕組みということになっているので、

警察の捜査対象となるのは、
「加害者がやったこと」や「その周辺事情」が中心で、
被害者は、その「証明の一手段」みたいな
位置付けになってしまいがちなのです。

捜査機関(警察や検察)の方たちも、
取調べで被害者に気を遣いながら話は聞いてくれるものの、
「被害者がこの事件に関して、どう行動したらいいか」については、
そこまで積極的にアドバイスしないし、捜査の経過も教えてくれないんですよね。
(それは、仕事の中心じゃないからかなぁ。。。)

一方で、加害者の方は(捜査対象なので)、
「犯行そのもの」だけじゃなくて「どういう事情でやったのか」とかの背景事情も聞いてもらえたり、
場合によっては「素直に反省した方がいいぞ」とかアドバイス(?)してもらえてるのと比べると、
なんというか、被害者については、あまりに「扱いが軽い」んですよね。

しかも、加害者の方には弁護士が(国選の場合は無料で)ついて、
親身になって話を聞いてくれるし、法的なアドバイスもしてもらえてますしねぇ。。。

被害者の方は・・・「放ったらかし」というと言い過ぎかもしれませんけど、
加害者と比較すると、自動的に受けられるような特別な支援はないということもあって、
なんかちょっとバランスが悪い感じがするのが、日本の刑事司法制度なのです。

(ちなみに、警察や検察の方の中には、結構このことに自覚な方もいて、
 「被害者支援センター」なんかにいくと、元々問題意識を持っていた警察OBの方とかが、
  被害者の方のサポートの仕事をされていたりします。)

2:被害者側でできること

そんな扱いなわけなので、じゃぁ刑事事件について、
「被害者側で動く必要なことは、あんまりないのか」っていうと、
全然そんなことはなくて、結構いろんな場面があります。

そもそも「どうやって被害を回復するか(賠償を受けるか)」っていう、大事な問題がありますからね。
状況やタイミングにもよるんですけど、いくつか主なものを下に書いておきます。

(1)刑事事件になる前

a:警察に動いて欲しい場合

まず、警察が事件に気がついていない段階では、
警察に動いてもらいたかったら相談に行って、
「被害届」を出したりする必要がありますよね。

警察官の目の前で事件が起こった場合は例外ですが、
そうでない限り、警察は通報とかを受けたりしない限り、事件のことを知ることがありません。

そして、警察のリソース(人員)も限られていますから、
いろんな情報(困りごと相談みたいなのも含め)が警察署に飛び込んでくる中では、
被害が明確で捜査の必要そうなものを優先して対応することになるので、
「こういう状況で、こういう被害にあった」ということを整理して知らせることは大事なのです。

ちなみに、事件被害で動揺する気持ちもある中で「警察に相談する」というのは、
なかなか心理的にはハードルが高かったりするので、この段階でご相談いただくことも少なくありません。

私の方では、お話を聞き取って、事情を整理して、
「そうすると、警察の方にはこういうふうに説明するのがわかりやすいでしょうね。
 あとは、このへんの事情も話したり、関係する資料を持っていくといいと思います」などと、アドバイスしたります。
(状況が整理されると、話す側もきく側も楽になりますからね。)

b:警察に持っていくかは保留して、交渉してみる場合

なお「相手の身元もわかっていて、必ずしも警察沙汰にする必要はない」というときは、
とりあえず、当事者同士で「任意の交渉を進める」という選択肢もあります。

その場合は「警察に相談する」というのは「交渉カード」的な位置付けになりますね。
「誠実に対応してくれないなら、警察に被害を届けるぞ」と言う感じです。

この場合は、ただのハッタリにならないように、
ちゃんと証拠の保管や整理をしておいた方が良かったりします。

こういうのって、交渉態度などから、
なんとなく相手には透けてしまう部分もありますからね。

準備によって「自然と滲み出る自信」みたいなものは、
結構、交渉の行く末を左右したりするものだったりします。

(2)すでに事件になっている場合
   (でも、刑事処分や裁判はまだの場合)

また、すでに警察が動いて事件になっている場合、
(特に相手が逮捕されて留置所に入っているような場合)は、

加害者についた、弁護士の方から、
「示談してもらえませんか」と連絡が来ることがあります。

加害者側の弁護士さんには、刑事司法の仕組み上、
「刑事処分や裁判よりも前に示談しないと意味がない」というところもあって、
早めの決断を迫ってくるので、これが被害者側には結構なプレッシャーです。

とはいえ被害者側にとっては、賠償金を受け取ったり、
今後の条件(以後、二度と接近しないとか)を決めたりするには、
加害者側の示談したいモチベーションが高いタイミングなので、
「ベスト」の交渉タイミングだったりもします。

具体的に言えば、刑事処分や裁判が終わってしまった後よりも、
「有利(高い賠償金や厳しい条件)」での示談ができる可能性が高いんですね。

ただ、自分が望んでいる内容を、
相手側の弁護士にストレートにぶつけられる被害者さんというのは、
個人的には、あんまり見たことがありません。

気が強い人でも、結構遠慮してしまうというか、
「この金額って大丈夫なんだろうか?」「本当はこうして欲しいけど、言っていいのかな?」という気持ちもあるし、
また「そもそも、どうしたらいいのか(相場感とか一般的な条件とかが)わからない」というのが一般的です。

だって、実際に刑事事件に巻き込まれるなんて、人生でそうそうないですからね。
自分が当事者になった時に、どうしたらいいかってわからないものです。

この段階でいただくご相談の際は、
そもそもの被害についてしっかり聞き取った上で、

「この事件だと、一般的にはこのくらいの金額ですが・・・・
 交渉的には、まずは希望をストレートにぶつけた方がいいですね。」とか、

「今後のことを考えると、こういう条件をつけて、
 抑止力にしておいた方が安全かもしれないですね」とか、

いろいろと示談条件の案や、交渉の方針なども話し合うことが多いです。

また、被害者側代理人として、相手方と交渉することもよくあります。
弁護士同士の方が、スムーズに進むこともありますので。

(3)刑事処分や裁判が終わってしまっている場合

刑事処分や裁判が終わってから、ご相談を受ける場合もありますね。

なんというか、事件から間もない時期って、
物理的、心理的なダメージからの回復過程でもありますし、
そんなに動けなかったりする方が自然ですので。

(そもそも「弁護士のところに相談に行く」というのも、
 結構勇気がいると言うか、エネルギーを使うものですからね。。。)

タイミングとしては、加害者がすでに不起訴となって釈放されていたり、
起訴されて刑事裁判になっている、あるいは、もう判決が出ているっていう状況です。

こうなると刑事事件が同時進行している状況よりは、やや不利で、
刑事事件とは別に「(民事上の)損害賠償請求をする」ということになります。

なお、相手側がどういう処分を受けたか、というのは、
最近だと「警察や検察があとで教えてくれる」という制度がありますが、

これは、希望を出さないと、自動的に通知されてくるわけでもなく、
民事上の請求に必要な資料を提供してくれるわけでもないのです。

刑事事件というのは、加害者にとっては「究極の個人情報」みたいなところがあるので、
捜査機関も、そんなに積極的に情報開示してくれるわけではないんですよね。

なので、捜査機関と交渉して、可能な限りで、
情報収集をするところからのスタートってことになったりします。

また、これもあまり弁護士さんがやらない理由だと思いますが、
相手側の処分内容や、事件の証拠資料の入手ができたとしても、
「賠償金が取れるかどうかは、やってみるまでわからない」という事情もあります。

というのも、刑事事件と民事事件は別物なので、
裁判を行うにしてもイチから立証をしなければいけないですし、

また、裁判で勝った(賠償が認められた)としても、
「相手側に支払う意思や支払う能力がない」と回収が難しい、ってこともあるからです。

これも、司法制度の不備的なところですが、
「お金のない人、支払う気がない人」から取るのは、
裁判所を経由しても、とても大変なのです。

とはいえ、刑事事件の加害者というのは、
社会のイメージとは異なって案外に「普通の人」が多かったりしますので、
全く回収の見込みがないわけでもありません。

被害者側の請求内容を、ちゃんと裏付けを持って、
「このくらいの被害が出ているんですよ、せめてもの埋め合わせはできませんか」
って話をすると、誠実な対応をいただけることも度々経験してきました。

あとは交渉過程で、加害者側の状況が見えてくるので、
その辺りを弁護士がしっかりと聞き取って、フィードバックすることで、
被害者の方の気持ちの整理に役立つってことも少なくないですね。

金銭的なことだけでなく、こういうことも、
「どうして自分が被害に?」っていう気持ちを持ちながら、
被害のダメージから立ち直りつつある方にとっては、
とても大事なことだったりするんですよね。

3:まとめ

ということで、刑事事件の被害者ができることについて、
パターン別/タイミング別にざっくりまとめてみました。

犯罪の被害にあった人にとっては、
現在の司法制度はいまいち使いにくいところがあるのですが、
それでも被害回復のために、色々とできることはあります。

何かあった時は、まずはご自身のダメージを癒すことから、とは思いますが、
少し気持ちが落ち着いてきて、自分のために動きたいというタイミングがやってきたら、
ぜひ、法律的にできること、そのためのサポートを受けることも検討してみてください。

そのためのアクセスリソースとしては、
法テラスの「被害者法律相談」も全国各地の「被害者支援センター」があり、
これらは各地の弁護士会と連携しているので、無料の法律相談を受けることができます。
(性暴力被害などについては、さらに特別な支援機関も各地にあります。)

また、各地の弁護士会には、
被害者支援のための委員会があったりしますので、
直接弁護士会に連絡してみてもいいですし、

また、そういった分野に熱心な弁護士を知っていれば、
その方に相談してみるのもいいと思います(私も受け付けています)。

法律や司法というものは、制度的な支援からこぼれ落ちてしまっている、
犯罪被害者のような苦しい立場の方の支援に役立ってこそというところがありますしね。

なので、被害者の方には、
もしそういう支援を必要とする気持ちになることがあったら、
ぜひ、法律相談等を利用していただけたらなぁと思っています。

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